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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2023.02.02
2023.02.03

スマートホームを激変させる「matter」。アクセルラボのCTOが解説&新しいショールームを見せてもらいました。

記事ライター:iedge編集部

1.スマートホームって意外とめんどうくさい。

日頃このスマートホームを礼賛する記事ばかり書いている私であるが、正直なところスマートホームは意外と面倒くさい。購入自体はAmazonでもできるが、その設置や初期設定はなかなか億劫な作業となる。しかも、スマートホームの醍醐味である自動化や一括操作(前者はルール機能と呼んでいる会社が多く、後者はシーン機能と呼んでいる会社が多い)の設定を同時に行う必要がある。

しかも、さらに厄介なのが、スマートホームの多くがメーカーをまたいだ連携や操作の点で未発達だということだ。各デバイス単位で良さそうなプロダクトがあっても、それらを統合して完全に1つにできるサービスは、少なくとも日本国内には存在していない。(AlexaやGoogleネストハブで疑似的に行えるが、それでも細かい制御はできていない)カーテンを自動化するデバイスであれば、スマートホーム事業者がそれぞれ対応する機器を出しており、我々消費者はどのカーテン自動化機器を選ぶかではなく、どのプラットフォームに乗るかを選ばなければならない。
デバイス主体で選んだ場合、分断された無数のアプリがスマートフォン上に存在することになる。その場合、スマートホームの売りであるオートメーションは不十分なものになりがちだ。

あまり深く考えずに選ぶのであれば楽なのかもしれないが、機器によって微妙に変わる仕様を意識すると、一律には選べなくなる。カーテンはA社、鍵はB社、と好みのデバイスを選ぶことは事実上難しい。しかしながら、各デバイスを個人が自由にピックし、それらを制御するアプリ側も自分の好きなものを選びたいと願うのは、自然なことなのではないだろうか。現代人的な贅沢な悩みかもしれないが。

2.アクセルラボは「Matter」について、かく語りき

2-1.西新宿で聞く国際規格「Matter」の話

事業者向けにスマートホームサービスを提供している株式会社アクセルラボが、メディア向けに「Matter説明会」と「ショールーム内覧会」を行うと聞きつけた私は、寒空の中で西新宿へと向かった。

私が冒頭で嘆いていたスマートホームのデバイス間の連携が弱い点であるが、これについてはすでに多くのメディアが取り上げている通り、GAFAを中心となって「Matter」という名の共通接続規格が進行している。今回はそのMatterを策定する団体であるCSA(Connectivity Standards Alliance)にも参画している株式会社アクセルラボ CTO 青木 継孝氏から、Matterについてのお話しを伺った。


株式会社アクセルラボ CTO 青木継孝氏

2-2.誰もこれまで共通規格を考えてこなかったのか?

スマートホームのユーザーであれば誰もが感じる「メーカーを気にせずデバイスを繋ぎたい」という欲望を、提供者側であるメーカー側も知らなかったわけではない。日本企業をよく揶揄する言葉で「日本の会社は自分のところで囲い込むから」という言葉があるが、スマートホームにおいては早くから単一メーカーによる囲い込みがユーザーに与える不都合を認識していた。そのおかげか、実はこれまでもスマートホームの共通規格の樹立は何度か試みられてきた。


過去に普及が試みられたスマートホームの共通通信規格たち

これら失敗(と言い切るのは大変申し訳ないが)した共通規格の存在を知ると、今度のMatterも同じ道を進むのではないかと思ってしまうのだが、青木氏はMatterの中枢企業に目を向けていた。

これまでとは違いスマートスピーカーや家電メーカー、チップメーカー等、スマートホームに関連した領域で大きくシェアを持つ企業が数多く参画している。この点はMatterの大きな推進力になっており、参画企業の一覧を見るとそれも確かにうなずける。


Matterの仕様策定を進めるCSAのpromotersメンバーの企業群

スマートホームに興味がない人でも、企業名を聞くとどんな企業かが思い浮かぶような有名どころが揃っている。この企業が協力する道を歩まずに、独自規格とプラットフォームで大戦争を始めていたら、スマートホーム好きなユーザーは多額の身銭を失い、そこまで興味のないユーザーは複雑な製品を目にしてさらに興味を失っていただろう。それが回避されつつある未来は少し明るい。

青木氏が説明していた例に乗っかった話になるが、かつてパソコンに機器を接続するための規格が10個以上存在していたが、それらは全てUSBへ変換が可能になり、それにより我々は困ることなく周辺機器を選択することが可能になった。スマートホームは(とくに日本では)パソコンほどの普及はないものの、これから本格的な普及期を迎える前に、くだらない規格戦争が平和的に解決していることは実に素晴らしいことだ。

企業間のコンフリクト的背景はさておき、Matter自体の技術的側面に目を向けると、過去の共通規格で培われたメソドロジーが援用されている点や、現在スマートホームで多く利用されている通信規格である「zigbee」や「Zwave」も切り捨てずに内包している点は大きく評価できる。

Matter自体の特徴として
①オープンソース:誰でも仕様を参照し、開発ができる。
②互換性:スマートホームで用いられる通信プロトコル同士を繋ぐ役割を持つ。
③安全性:デバイス間の連携にブロックチェーンを用いており、高セキュリティ性能を持つ
④簡単な接続:QRコードやBluetoothを用いて、これまでよりも容易にデバイスを接続する。
が上げられている。

Matterに対応したデバイスの製品化にはCSAの認証がいるものの、特定の企業群だけが使える規格ではなく、望むのであれば他の企業でもその仕様を利用できるのが大きな特徴だろう。また、相互接続性を担保することで、その接続作業の手間も減らしていく狙いだそうだ。これも私が冒頭で書いたが、スマートホームデバイスの接続はそれなりに面倒な作業が伴う。各社の努力でわかりやすくなってはきているが、一定の手順を踏む必要はある。それが解消されることは、これからスマートホームに少しでも興味を持ったユーザーにとっては、その導入ハードルを大きく下げる効果があるだろう。

2-3.さて、わが日本国の企業はどれだけ参画しているのだろうか?

現在日本企業で参画している企業についても青木氏から説明があった。

三菱電機やパナソニックなど、見慣れた企業が並んではいるものの、その絶対数は少ない。しかも参画しているグループがどこもParticipantレベルであり、仕様策定の音頭をとれるPromotersには1社も入っていない。


Matterに関わる日本企業。大手企業が少なく、半数をベンチャー/スタートアップが占めている

スマートホームへの事業戦略上の投資が少ないのか、それともまた自社規格で頑張っていくつもりなのかはわからないが、米国を中心としたビックテックが決めたルールにのっていく流れは変わらなそうだ。

ちなみにお隣韓国のSamsungはMatterの仕様策定にも熱心な反面、自社の白物家電がMatterの対象から外された時のリスクヘッジとして、HCA(Home Connectivity Alliance)という家電メーカー向けの相互接続グループも主導している。コネクテッド製品で今後大きく事業展開を進める腹積もりだろう。

青木氏の言葉で印象的だったのは、Particimentの日本メンバーの約半数が、スマートホーム関連のスタートアップやベンチャー企業で構成されている点だ。日本の大手企業がMatterを重要視していなかったり、そう思っていても参加を悩んでいる中、所謂新興企業が積極的に取り組んでいる点は、国内のスマートホーム推進の基軸がどこにあるのかを示しているかのようだ。

もちろん、彼らの事業内容が多角的ではないが故に、スマートホームに全投資して規格策定に取り組めるという背景はあるかもしれない。稼ぎ頭がそれしかないので、スマートホームがコケると事業継続に影響が出るというリスクから、それを日本で普及させることが至上命題になっているのだ。

とはいえ、そのようなエネルギーと執念を持ってコトに取り組む企業がいるからこそ、我々の生活は豊かになってきたという側面は否めない。

2-4.そんなアクセルラボがMatterに取り組む思惑とは

そんなアクセルラボがMatter対応の裏で考えているプランについても、青木氏が解説してくれた。


アクセルラボが計画する今後のプロダクト連携図

Matterに対応するということは、これまでデバイスラインナップによってある程度既定されていたプラットフォーム(制御アプリ)選定の基準が、それ単体に独立することになる。言い換えれば、デバイスに関わらず、そのプラットフォームの持つ機能やUI/UX、他サービスとの連携などがスマートホームのプラットフォームを選ぶことを意味する。

「スマートロックとスマート赤外線リモコンが使いたいからB社のプラットフォームを選ぶ」という選び方ではなく、「このアプリの使い勝手が良いからこのプラットフォームにする」という選び方が主流になってくるのだ。

この未来を見据えて、アクセルラボはスマートホームデバイスとの連携はこれまで通り進めつつ、Matterからこぼれおちる日本の住宅設備との連携や、住宅向けサービス事業者との連携、天気や防災等の情報サービスとの連携を重ねていくそうだ。また、その連携群を単なるスマートホームとして還元するのではなく、ホームセキュリティやペットの見守りなど、特定の課題解決に向けたソリューションツールとして提供していく計画だ。

これまでのスマートホームは「繋がり、動く」ところが合格点であった。Matterの到来により、それは当たり前のことになり、「繋がり、動いたもので何かを成す」ところまで至ったサービスが勝者となるだろう。

3.これがスマートホームのすばらしい新世界

青木氏の講演が終わった後、我々参加メディアは新しくなったショールームに案内された。そこの様子についても触れておきたい。


メディア関係者を前にショールームの説明をするのはグループダイレクターの高橋 貢氏


監視用屋外カメラの機能説明を行う高橋氏

まずは玄関周りのスマートホームデバイスの紹介からだった。写真にうつる従業員の方が持っているのがスマートホームアプリ「SpaceCore」で、ちょうど屋外用のカメラの映像をスマートフォンアプリから見ている様子のデモだ。

そのちょうど左側にあるのがスマートインターフォンで、集合住宅のオートロックの機械の代わりにこれを設置し、各戸の玄関にも子機をつけることで、自宅への来訪者に対してスマートフォンから応対できるようになる。

ショールームは1LDKの部屋を再現しており、この空間内に30近いスマートホームデバイスが設置されているという。一般家庭の設置デバイス数であれば異常だが、近い将来はこれくらいのデバイスを設置するのがデフォルトになると考えている。

アクセルラボのショールームではこれらのデバイスが連携し、ワントリガーで全てが動き出す様子が確認できる。例えば、ショールーム内のスマートスピーカーに「ただいま」と話しかけると、照明が次々と点灯し、テレビがつき、カーテンと電動シャッターが開き、エアコンが動くという住宅のセットアップが次々と繰り広げられる。これまでの住宅であれば人間がいちいち手で操作していたものが、「ただいま」の一言で全て済んでしまう。デバイスの連携数が多いSpaceCoreならではの体験だろう。

また、海外ではすでにスマートホームの主要機能になっているひとつが住宅のエネルギー管理なのだが、SpaceCoreはそれにも対応しており、実際の画面を閲覧することができた。従来の住宅でも、発電量や電気使用量を確認できる住宅はあったものの、専用のタブレットのような機器が住宅壁面に埋め込まれ、そこから確認するしかなかった。しかし、現代はスマホ優勢の時代である。スマホアプリからいつでもどこでも確認できるのが今後のスタンダードになっていくだろう。

 

エネルギー管理機能のアプリ画面。この画面は電力収支を表示している

また、SpaceCoreの連携デバイスで一番巨大なものがこのスマートミラーだ。バチェラーで話題の黄皓氏が手がけるMIRROR FIT.(ミラーフィット)とも連携している。このスマートミラーからSpaceCoreアプリが操作できるそうで、スマホを持たない子供や高齢者などに対するスマートホームとのタッチポイントとして利用しているそうだ。


MIRROR FIT.。この鏡からスマートホームの操作も行える

これまでのスマートホームは自分で買ってきた機器を取り付け、ホームオートメーションと遠隔操作を実現することが主流な使い方であった。今後は住宅にあらかじめ据付られた機器を使い、エネルギー管理や居住者の見守り、セキュリティ性能の向上など、より多角的なベネフィットのために使用していくことが主流になってくるだろう。アクセルラボのショールームは、まさにスマートホームの素晴らしい新世界を見せてくれた。


リラックスモード中の室内。スマートスピーカーに「リラックス」と伝えると、照明やカーテンが制御され、映像が焚火に切り替わった。 なおテレビの映像変化はショールーム用の演出とのこと

4.おわりに

今後Matter対応デバイスが日本国内で買えるようになれば、我々消費者にとってスマートホームはもっと自由な存在になる。プラットフォームという枠を越え、望むデバイスだけを選んだスマートホーム作りができる点は非常に魅力的だ。それに加え、それを制御するプラットフォームまでも好きに選べる点は、これまでのスマートホームになかった革命的な出来事だと私は考えている。

今後各社がそれぞれ特色のあるプラットフォームを創り上げ、ユーザーは自分の求めるサービスや機能を持つプラットフォームを選択していくようになるだろう。今後訪れるプラットフォームのポテンシャル拡大時代は、単にストレスなくスマートホームを動かせるだけではなく、それを用いてさらに豊かな暮らしを創り上げる未来を連れてきてくれるだろう。

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