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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2019.07.12
2019.12.18

【フィクションで探る人工知能の多様性】NetflixのSFアニメアンソロジー『ラブ、デス&ロボット』で描かれる人工知能が「歴史改変」をアップデートするとき

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

2016年秋、生まれたばかりの娘を抱きながら私はテレビニュースに釘付けになっていた。
「メキシコとの国境に壁を作る」と宣言していたドナルド・トランプがアメリカ合衆国の大統領になった。

その少し前にはイギリスが国民投票の末、EUから離脱することが決まった。遠く離れた異国の私から見れば、“ありえないはずの未来”が次々に現実となった。

※画像はイメージです

物理的な距離はあるものの、日本とは比較的密接な関係にある二つの国で「分断」が顕在化してしまったことは、少なからず私たちの生活を変えてしまうかもしれない。そう考えながら、まだ目もちゃんと開いていない娘の顔をじっと見つめた。

これらの出来事は、私に歴史というものの“危うさ”を痛感させると同時に、こんなことを夢想させた。「もしも、ヒラリー・クリントンが大統領になっていたら」。「もしも、EU離脱が可決されなかったら」。

反実仮想が仮想現実として顕在化する

※画像はイメージです

現実に反することを仮想することは、そのまま「反実仮想」と呼ばれる。

午後から雨の予報なのに傘を玄関に置いてきてしまった。飲み会でのちょっとした一言で友人をひどく傷つけてしまった。こうした時、私は「もしもあの時傘を持っていたら」、「もしもあの時あんなことを言わなければ」、とつい空想してしまう。

このような瑣末な反実仮想から、冒頭のような歴史を大局的に変えるであろう反実仮想まで(もちろん瑣末に思える反実仮想が歴史を大局的に変えるようなこともあるだろうけれど)、“現実ではない現実”に想像力を巡らせることは、少なからずだれしもにあることだろう。

そして、そうした想像力は、これまでに“フィクション”として素晴らしい作品を生み出してきた。その中でも史実に基づきながら、今とは異なる歴史をたどる、「歴史改変」は一大ジャンルとして広く知られている。

最近の日本文学でいうと、大戦後、日本がインドとの連邦国家を作る古川日出男の『ミライミライ』や震災後鎖国した日本を描き、アメリカの権威ある文学賞「全米図書賞」を受賞した多和田葉子の『献灯使』などが「歴史改変小説」という面を持っているだろう。

人々の好奇心を刺激し、歴史に秘められた新たな可能性について考えさせてくれる「歴史のif」に技術は今後どんな変化を与えるのだろう。

その問いに対し一つの可能性を提示するのが、NetflixオリジナルのSFアニメアンソロジー『ラブ、デス&ロボット』に収録された『歴史改変』だ。今作では、歴史的事実に史実とは異なる様々なシナリオを用意し、それらをヴァーチャル体験できるアプリ「マルチバーシティ(Multiversity)」が登場する。

人工知能が「歴史改変」をアップデートする時代はもう始まっている

『ラブ、デス&ロボット』は『デットプール』で監督を務めたティム・ミラーが監督を務め、『ファイト・クラブ』や『ドラゴン・タトゥーの女』などで知られるデヴィッド・フィンチャーが製作総指揮を務めた注目シリーズ。シリーズ1では、アニメーションや3DCG、実写など様々な技法を駆使した18編が収録されており、ケン・リュウの同名作品を原作とする「良い狩りを」のようにSF小説を原作とする作品も多い。

そして、18編中3編の原作を担当するのが、SF小説家でノンフィクション作家のジョン・スコルジーだ。『歴史改変』も彼の作品を原作にしている(ちなみに原作となる『ALTERNATE HISTORY SEARCH RESULTS』は日本では未訳だが、ウェブマガジン「Subterranean Press」にて無料で読めるので、興味のある方はぜひ目を通してもらいたい)。

『歴史改変』では、“最も人気のシナリオ”としてアドルフ・ヒトラーにまつわる6つのシナリオが登場する。そして、アドルフ・ヒトラーが死ぬタイミングによって、第一次世界大戦、第二次世界大戦、核爆弾投下地、そして人類で最初に月面に立つ人物をどのように変化させるのかが描かれる。

※画像はイメージです

人工知能の技術が発達し、仮想空間でリアルな歴史シミュレーションが可能になった未来、好きなシナリオで歴史を改変できるとしたら…、と考えると、好奇心がむくむくと湧き上がってくる。

史実の完全な再現、というのは現時点ではほぼ不可能に思えるが、歴史改変フィクションにAIを組み込む、という試みはすでに行われている。例えば、コーエーテクモゲームスから2017年に発売された歴史シミュレーションゲーム『信長の野望・大志』では、よりリアリティに富んだプレイ体験を目指し、キャラクター設計にAIを組み込んでいるそうだ

このような取り組みを見ていると、技術がより上質な「歴史改変」を体験させてくれる未来はそう遠くはないのかもしれないと感じる。

一方、『歴史改変』で描かれるヒトラーの最後のシナリオを見ると、人々が好きなように歴史を動かせるようになることの危険性も感じてしまう。
作中では、様々な方法でヒトラーに残虐な死が降りかかるが、こうしたシミュレーションが「いずれ歴史を揺るがすような悪事を行う人」には過酷なシナリオを当てても良い、という意識や歪んだ歴史感を人々に植え付ける、なんて可能性だって十分あるからだ。

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歴史のifから学ぶこと

「歴史のif」に向き合うことが、私たちに新しい視点を与えてくれる

※画像はイメージです

事実よりも魅惑的なポスト・トゥルースが蔓延する今、よりリアルに架空の歴史を体験できることが歴史修正主義や偽史、陰謀論を蔓延させる危険性について、今一度考えなくてはならないだろう。

そうした中で、「歴史のif」に私たちがどう対峙するべきか、を新しい視点から論じた本がある。それが社会学者である赤上裕幸の『「もしもあの時」の社会学 歴史にifがあったなら』だ。

学術的には、「歴史にifはない」という言葉とともに嫌厭されがちな反実仮想だが、今作では「歴史改変」の歴史やその背景を多角的に捉えながら、「歴史のif」を考えることが、歴史や未来を考える上での良い思考実験になるのではないか、と提案する

ここで提案される有効な「反実仮想」とは、今現在の視点からではなく、未来の他者として、過去のある時点に生きる人々の目線に立ち、証拠に基づいて「ありうるかもしれない未来(=ありえたかもしれない歴史)」を考えることだという。

「現在」に生きるわれわれは、歴史上の人々にとっては「未来人」であり、「未来の他者」である。われわれの試みによって、救済の光が当てられた歴史上の「敗者」たちは、「過去」から「現在」へ呼びもどされ、最終的には「現在」のものの見方を変えていく。この意味において、反実仮想は、過去/現在/未来のすべてを対象とした革命的なアプローチになりうるのである。

赤上裕幸『「もしもあの時」の社会学 歴史にifがあったなら』

そして、こうした行為が、歴史の真っただ中にいる私たちに、「ありうるかもしれない未来」を考えるきっかけを与えてくれるという。

すでに指摘したとおり、われわれの歴史は、実現した「未来」とともに、実現しなかった「未来」によって形づくられてきた。だとすれば、現代に生きるわれわれに求められるのは、「未来の他者」からの呼びかけを否定せず、未来に向けて「声」をあげ続けていくことではないだろうか。救いの手は、沈黙には及ばない。先が見通せないと言われている時代だからこそ、救済の対象となる時間軸を「現在」に限定せず、「未来」との連携可能性を模索していくべきなのである。たとえ「現在」からは見向きもされなくても、「未来」は見捨てない。そう信じつづけることが、何かをなすということなのかもしれない。

赤上裕幸『「もしもあの時」の社会学 歴史にifがあったなら』

ドナルド・トランプが選挙に当選し、イギリスのEU離脱が決まっておよそ三年が経とうとしている2019年6月現在、しかし、「メキシコとの国境の壁」は完成していないし、「イギリスのEU離脱」も実現していない。

私たちが今、直面する出来事は、「未来の他者」がこぞって改変したがるような歴史の分岐点である可能性だってあるのだ。
情報が溢れ、様々な思想がぶつかり合う今だからこそ、ありえたかもしれない過去に思いを馳せたり、ありえるかもしれない未来に向けて行動を起こしたりしていくことを大切にしていきたい。

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