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2019.04.05
2019.04.05

映画『インセプション』で描かれた夢を共有する技術は個人の時代に最適かもしれない

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

新しい発想を生み出してくれる夢の世界

「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉や鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。するとさっきの若い男が、「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。

自分はこの時始めて彫刻とはそんなものかと思い出した。

「第六夜」、夏目漱石『夢十夜』

“夢”の中で私たちは新たな世界を構築し、拡張された時間(※1)の中で生きる。

夏目漱石『夢十夜』において、明治時代を生きる語り手が平安末期を生きた運慶の彫刻を刻む姿を前に「木に仏が埋まっている」という発想を得たように、現実ではあり得ないことを幻視させてくれる夢の世界は、一種の創造であり、アイディアの宝庫とも言えよう。もし、他者の夢をはっきり記憶できたり、自由自在にコントロールできるとしたら、あなたは何を覗き見るだろうか?

名匠、クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』では、アイディアを盗む(あるいは新たなアイディアを他者に植え付ける)ため、他者の夢に入り込む、という技術が登場する。

それでは、現実に他者の夢からアイディアを盗むことはできるのか、考察してみた。

※1 スイス、バーン大学のエーラッカー教授らの研究により、夢の中では時間の流れが50パーセント程度遅く流れている可能性が示唆されている

脳活動データ×AIで夢を再現できる?

国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が2013年に発表した論文によると、被験者の睡眠中のfMRIスキャンから夢に見た物体を解読することに成功したそう。ここでは、覚醒後の被験者に夢の内容について語ってもらい、起床時に様々な物体の画像を見た時の被験者の脳活動データと睡眠中の脳活動データを比較する、という手法で解析を行ったそうだ。

さらに2018年にはATRと京都大学が、機械学習を使って脳波データのみから、視覚像や脳内でイメージした画像を判定できたとする研究も発表されている。どうやら、夢を映像データとして復元できる可能性は低くなさそうだ。

『インセプション』では、トランク型の夢共有装置にチューブで接続することで、特定の一人(ドリーマーと呼ばれる)の夢に複数人で入る、という仕組みになっている。
映画内では、同じ夢の中に複数人で入っても他者と思考や視界を共有するという描写は見られなかった。つまり脳と脳を電極で接続し、同じ夢を見ている、とは考え難い。そこで、現存する技術を鑑みると、チューブで脳活動を測定し、データをAIで処理し、再現された夢空間の中で各個人がアバターとして活動していると仮定できる。

『インセプション』の中に登場する夢空間は巨大な都市の形をしており、さらに迷路のように入り組ませ、細部までこだわって構築することで夢としての強度が高まるという。つまり、夢の解析、再現には膨大なデータを処理する必要があるというわけだ。そんな超高度な解析ができる装置が『インセプション』では、小さなトランクの中に収められている。大したものだ。

夢を詳細に解析できれば、夢の中からアイディアを盗む、というのも、そう難しくはないだろう。

個人の時代にこそ、夢が求められるかもしれない

アイディアはウイルスみたいだ。しぶとくて感染力が強い。

『インセプション』

ビジネスインフラが充実し、働き方が多様化していく今、個人が独立して仕事をする、という形式が加速的に広がっている。個人で活躍しようと考えた時に必要となるものの一つに“アイディア”がある。

技術発展により、様々なアイディアを簡単に形にできる今、夢というものが私たちに与えうる新しい発想を望む人は少なくないだろう。かくいう筆者も夢が生み出すアイディアを“見て”みたい人間の一人だ。

一方で、『インセプション』に登場するように、他者にアイディアを盗み見られたり、思いがけもしないアイディアを植えつけられる可能性だって0ではない。

もし、本当に夢を再現できた時、私達が被るものは、恩恵なのか、はたまた災厄なのか。
いずれにせよ、一度、“夢を再現できる装置”が世に出れば、瞬く間に拡散していって、歯止めが効かなくなるのだろう。アイディアと同様に、技術だってウイルスのようにしぶとくて感染力が強いのだから。

最後に、蛇足的な筆者の体験談を。
『インセプション』しかり、『インターステラー』しかり、クリストファー・ノーラン監督の作品には、高度な技術を必要とする描写がふんだんに盛り込まれているにもかかわらず、インターネットに関する描写がほとんどない。これは筆者にとって長年の不思議だったのだが、先日調べてみると、彼は常日頃からインターネット嫌いを公言しており、『インターステラー』においてはパソコン、携帯電話などインターネットを想起させるものは出さなかったという情報に行き会った。その理由は
「ネットのせいでみんな本を読まなくなった。書物は知識の歴史的な体系だ。ネットのつまみ食いの知識ではコンテクストが失われてしまう」ということらしい

この一連の事実を筆者はウィキペディアで知った。こんな悲しいことってあるだろうか。

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