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2019.09.11
2019.09.11

映画「エニグマ」の主人公、アラン・チューリングは「人工知能の父」だった ―アラン・チューリングの数奇な運命

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

この数十年、わたし達は幾度となく、アラン・チューリングを“再発見”している。

例えば、1966年。Association for Computing Machinery(通称、ACM)がコンピューター科学の分野で功績を残したものに与える賞を「チューリング賞」と名付けたとき。
例えば、1986年。アラン・チューリングの生涯が描かれた戯曲『ブレイキング・ザ・コード』がブロードウェイで公開されたとき。
例えば、2011年。アメリカ大統領のバラク・オバマが演説の中で、「科学に貢献したイギリス人」としてダーウィン、ニュートンと並べ、アラン・チューリングの名前をあげたとき。

そして、今年。イギリスの新50ポンド札の「顔」として選ばれたのも、アラン・チューリングだ。

歴史的偉人としての認知だけでなく、彼の残した研究成果もまた、技術発展とともに再評価が進んでいる。
彼の名前が話題に上がるたび、ひとり、またひとりとアラン・チューリングや彼の残した業績の価値を“発見”していく。

しかし、裏を返せば、死後半世紀以上が経った今なお、彼は“発見”されてしまうほど知られていないということになる。

もちろん、テック業界では、彼の名前を知らない、聞いたことがない、なんて人の方が少ないだろう。だが、一般的には、彼の名前はまだ十分に知られているとは言い難い。
実際、Google検索で、Darwin、Newton、と検索するとそれぞれ、3億6800万件、3億4800万件の検索結果が叩き出されるが、Turingで検索した結果は2790万件。文字通り、ケタ違いの差があるのだ。

Google検索の結果(2019年8月20日)

街を歩くほとんどの人が「コンピューター」を片手に持ち、AIという言葉が広く使われているのに、「コンピューター科学やAIの父」とまで呼ばれるアラン・チューリングは“知る人ぞ知る”存在にとどまっている。

間違いなくこの世界の在りようを大きく変えたはずの彼の業績とそれに反する認知度の低さ。その歪さの裏には、彼の“先見すぎた明”と“数奇な運命”があった。

人工知能の“あまりに早すぎる”先駆者としてのアラン・チューリング

※画像はイメージです

アラン・チューリングの功績の中で、最も有名なのは、ドイツ軍が秘密通信に使っていたエニグマ暗号の解読における貢献だろう。

アランは、総当たり攻撃で暗号を解読する「チューリングボンベ」の開発をし、解読不可能、と言われていたエニグマをやぶった。エニグマの解読は、第二次世界大戦の終了を2年以上早め、1400万人以上の命を救ったともいわれている。
また、彼はコンピューターの基本モデルとなる「チューリングマシン」を作り出し、“コンピューター科学の創始者”としても知られている。
そして、様々な業績の中で、近年、特に注目が高まっているのが、「人工知能」の領域における彼の成果だ。アランは、人工知能の可能性について最も早い段階で論じた一人なのだ。

1950年、アランは論文「Computing Machinery and Intelligence(邦題:計算機械と知能)」にて、のちにチューリングテストという名前で知られることになるイミテーションゲーム(模倣ゲーム)を提案した。このゲームは、男性、女性、それぞれ一人ずつと質問者の三人一組で行う。三人は別室におり、質問者は様々な質問をすることで、回答者の性別を当てる、というもの。コンピューターと人間の類似性を科学的に評価するこのゲームは、形を変えて今では人工知能と人間を判別するためのテストとして広く用いられている。
さらにアランは同じ論文の中でコンピューターについて以下のような予言を残している。

これから五〇年程度の時間で、一〇の九乗ほどの記憶容量をもつ計算機をプログラムして、その計算機に平均的な質問者が五分間質問した後に、七〇パーセントの確率で正しい性別の判断を出すことができないような模倣ゲームをやらせることは可能になるだろう。もともとの疑問、「機械は思考できるか?」は意味がなさすぎて議論に値しないと思う。しかし、今世紀の終わりには言葉の使い方や一般的教育状況がかなり変化して、機械が思考しても矛盾があるとは感じられなくなることを信じる。

アンドルー・ホッジス(土屋 俊・土屋 希和子 訳)『エニグマ アラン・チューリング伝』

このアランの予言は概ね当たっていると言えるだろう。現在、メインメモリが10GBを超えるパソコンはざらに存在するし、2013年には、チューリングテストを受けたロシアのチャットボットが審査員の30%以上から人間だと判断された。
一方で、「機械は思考するのか?」という問いは、未だ大きな謎として私たちの前に立ちはだかっている。

コンピューターの歴史において黎明期といえる1950年代に、アランはなぜ「思考する機械」、今でいうところの「人工知能」に思いを巡らせるようになったのか?

その答えを考えるためには、アランの幼少期までさかのぼる必要があるだろう。

次ページ:アラン・チューリングが描いた「機械としての身体」という夢

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